借地権を譲渡する際の流れと注意点について

借地権を譲渡する際の流れと注意点について

土地上に建物を所有するためには、土地の利用権を取得する必要があります。 

そのような土地利用権の代表は所有権ですが、所有権のほかに他人の土地を建物所有目的で利用するための権利として「借地権」があります。 

本記事では、土地に対して借地権を取得して建物を所有している者が、建物を譲渡するに伴って借地権を譲渡する場合の手続、注意点についてまとめてみます。本記事のポイント●借地権を譲渡する流れを理解しましょう。
●借地権を譲渡する際の注意点を理解しましょう。

1.借地権 

借地権とは、「建物の所有を目的とした地上権又は土地の借地権」をいいます(借地借家法第2条第1号)。 

つまり、借地権には賃借権と地上権があるわけです。

まずは、それぞれの権利について確認しておきましょう。 

①賃借権 

賃貸借契約に基づく債権であり、賃借人が賃貸人に対して目的物の使用を求めることができる権利です(民法第601条)。

その権利は、借地権設定者と借地権者との間の賃貸借契約によって発生し、その権利の内容は、原則として当事者間で締結される賃貸借契約によって決定されます。

②地上権 

地上権は賃借権とは異なり物権の一つで、「他人の土地において工作物…を所有するため、その土地を使用する権利」をいいます(民法第265条)。

賃借権とは異なり、土地所有者に対して使用させるように請求する権利ではなく、直接その土地自体を使用することができる権利(物権)です。

そして、その内容は物権法定主義により民法第265条以下の規定が定めています。 

また、地上権は物権ですので、権利自体の効力として登記することもでき、それによって第三者に対して権利を主張することができるようになります。 

現在、借地権の大半は賃借権であり、地上権はほとんどないのが実際です。 

2.借地権の譲渡

(1)地上権の場合

借地権も権利ですので、譲渡することは可能です。

ただし、譲渡に関しては、その借地権が地上権であるか、賃借権であるかによって違いがあります。

地上権は既に述べたとおり物権ですので、当然に譲渡可能であり、その譲渡について地主などの借地権設定者の承諾を得る必要はありません。

借地権者とその譲受人間の譲渡契約によって有効に譲渡することが可能です。

また、借地権設定者と借地権者(地上権者)との間で、借地権(地上権)の譲渡を禁止する旨を合意することは可能ですが、これを登記する方法がないため、

このような合意は譲受人に対して主張することはできません。

その結果、かかる合意に違反して借地権(地上権)の譲渡がなされた場合でも、その譲渡自体は有効であり、借地権設定者は譲受人の権利を否定することはできません。

借地権設定者としては、譲渡人である借地権者(地上権者)に対して、合意違反の責任を追及できるだけです。

(2)賃借権の場合 

①賃貸人の承諾

借地権の内容が賃借権の場合には、その譲渡について賃貸人の承諾をえる必要があります(民法第612条第1項)。 

賃貸人の承諾を得ずに賃借権を譲渡した場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除できるとされています(民法第612条第2項)。 

ただし、判例では、すべての無断譲渡等の場合に当然に契約解除が有効となるとはしておらず、無断譲渡がなされた場合でも、

それが賃貸人に対する背信的行為と認められない特段の事情がある場合には、無断譲渡を理由とする解除は認められない場合があるとしています(最高裁判決昭和45年12月11日)。 

②賃貸人が承諾しない場合

地主などの借地権設定者が、借地権(賃借権)の譲渡について承諾してくれないときは、賃借人は設定者の承諾に変わる裁判所の許可を求めることができます(借地借家法第19条第1項)。

この許可決定がなされた場合には、賃貸人の許可があったものとして、賃借人は適法に賃借権(賃借権)を譲渡することができるようになります。 

なお、裁判所が許可する場合には、譲渡人が借地権設定者に対して一定の「財産上の給付」を行うことを条件とすることができ(借地借家法第19条第1項後段)、借地権価格の10%相当額程度の給付を命じるのが一般的です。 

3.借地権譲渡の流れ 

実際に借地権の譲渡を行う場合、大きく分けて3つの場面が考えられます。 

  1. 賃借人と借地権設定者である賃貸人との間における、賃借権譲渡について承諾の問題 
  2. 借地権の譲渡人である賃借人と譲受人との、借地権譲渡の条件(借地権譲渡代金等)の問題 
  3. 実際に借地権を借地権譲受人に移転することに伴って生じる、借地権設定者と譲受人との間の賃貸借契約の条件、および、精算の問題 

順番に見ていきましょう。 

(1)借地権設定者の承諾の問題 

①賃貸借契約内容の確認 

既に述べたとおり、借地権が賃借権である場合、その借地権の内容は、賃貸人と賃借人との間で締結された賃貸借契約において定められています。 

従って借地権(賃借権)を譲渡しようとするときは、最初に賃貸借契約の内容を確認し、その譲渡についてどのような制限があるのかを確認する必要があります。 

民法第612条が定めるとおり、賃借権の譲渡には賃貸人の承諾が必要ですが、ごくまれに、賃貸借契約の中であらかじめ賃借権の譲渡を包括的に認めている場合もあったりします。

また、逆に、民法第612条に定める以外の条件が定められている場合もあります。

事前にこれらを確認しておかないと、実際に譲渡する段になってトラブルになる危険がありますので、事前にしっかりと確認しておきます。 

②承諾取得の申し入れ 

賃貸借契約の内容を確認したら、実際に賃貸人の承諾を取得する手続をとります。 

賃貸借契約書等に承諾の申入れ方法が定められている場合には、それに従います。通常は、事前に口頭で申し入れるとともに、その旨の書面を交付する場合が多いでしょう。 

なお、承諾の申入れを譲渡日の何ヶ月前までにしなければならないといった形で、申入日を制限している場合もありますので、注意が必要です。

その場合には、後日、トラブルとならないように、申入日や書面の交付日を明確に記録しておく必要があります。 

間違いないのは内容証明郵便による方法です。

ただ、そこまで大げさにしなくても、配達証明付書留郵便とか、配達記録郵便など、

その追跡・受領確認ができる方法で送ることが好ましいでしょう。

普通郵便はその到着を確認できないので避けるべきです。 

また、書面を直接手渡しする場合には、同じ申入書を2通作成し、1通は賃貸人に交付し、

もう一通には受領者から受領印を取得しておくなどして、その授受の事実を明確にしておくべきでしょう。 

③承認書 

譲渡承認の申し入れに対して、賃貸人の承諾が得られた場合には、それを確認する為の書面を作成し、具体的な条件等について確認しておくことをおすすめします。 

後日、賃貸人が承認を撤回したり、認識にずれがあってトラブルとなることを防止するためにも、承諾内容や条件を書面で残しておく必要があるからです。

③賃貸人が承諾しない場合 

賃貸人が借地権の譲渡について承諾してくれない場合、賃借人は裁判所に対して賃貸人の承諾に代わる許可を求めることができます(借地借家法第19条第1項後段)。 

この許可申立ては、借地権が譲渡されても、借地権設定者(=賃貸人)に不利となるおそれがないにもかかわらず、賃貸人が承諾しない場合に行うことができます。 

「借地権設定者に不利となるおそれがない」とは、基本的には譲受人の地代支払能力の有無が最も大きなポイントとなります。

賃貸借契約においては、賃貸人としては、その対価である賃料の回収が最も大きな問題だからです。 

その他には、譲受人が反社会的勢力等に該当している場合には、借地権設定者に不利となるおそれがあると判断されることになるでしょう。 

承諾に代わる裁判所の許可を求める際は、借地借家法第41条により当該土地の所在地を管轄する裁判所に申立書を提出して申し立てを行うことになります。

この裁判手続は借地非訟事件といい、借地借家法、および、借地非訟事件手続規則に従って処理されることになります。 

④承諾料 

賃借権の譲渡について、賃貸人の承諾を取得する場合に、承諾料の支払いを求められる場合があります。

この承諾料について法律が定めたものではありませんが、慣行として授受される場合が多いのが実情です。 

また、借地借家法第19条第1項の後段は、裁判所による賃貸人の承諾に代わる許可の裁判についてですが、

裁判所が借地権の譲渡の許可を、賃借人から借地権設定者への一定の給付を条件とすることができる旨を定めていることからも、

承諾料の授受について一定の根拠が付与されているといえます。 

賃貸借契約によっては、あらかじめ承諾料について定めている場合もあります。

相場としては、概ね、譲渡価格の10%程度が一般的といえるでしょう。

(2)譲受人との条件交渉 

①賃貸人の承諾についての説明 

譲受人との借地権の譲渡の交渉においては、賃貸人の承諾が条件となっていることを正直に告知することが重要です。 

これを怠ると、万一、最終的に賃貸人の承諾を得ることができなかった場合などに、債務不履行責任や契約締結上の過失として、責任を問われることがあります。

②譲渡価格 

譲渡条件の交渉において最も重要なのは、譲渡価格です。 

譲渡価格の決定においては、明確な基準はありません。

最終的には、その土地の場所、面積、周辺環境、用途地域などの諸般の事情を考慮して、当事者間で協議して決定することになります。 

ただ、一般的には、その土地の更地としての評価額の60%〜90%程度が相場と言われています(商業地の場合には90%〜80%、住宅地の場合は70%〜60%程度)。 

借地権の価格の基準として、路線価に借地権割合を乗じた値が基準になると言われることもあります。 

ただ、路線価とは、その土地が相続された場合の相続税を計算するために相続財産の評価額を算定する時の基準となる金額であり、土地を売買等する際の基準となる価格ではありません。 

従って、借地権の評価についても路線価に借地権割合を乗じた額をそのまま譲渡価格とすることは妥当ではありません。 

ただ、一つの参考価格にはなるといえるでしょう。 

また、借地上の建物とともに借地権を譲渡する場合には、借地権の価格と、建物の価格を明確に分けて定めるべきです。

既に述べた承諾料が借地権価格の一定割合とした場合、総額でしか定めていないと、借地権価格が明確でないという不都合が生じかねません。 

更に、価格の決定に際しては、借地権譲渡の承諾料や、建物の登記の費用、借地権が地上権の場合には地上権の移転登記をするか否かに応じてそのための登記費用などについても、

どちらが負担するかを含めて考慮する必要があります。 

(3)借地条件の交渉 

①借地条件

借地権が賃借権の場合、借地権を譲り受けた者は、以後、借地権設定者に対して賃料の支払いなど、賃借人としての義務を負うことになります。 

これらの賃借権の内容についても調整する必要があります。

場合によっては、借地権設定者から賃借権の譲受人との契約条件について、現在の契約条件からの変更を求められる場合もあり、

その場合には、借地権設定者と借地権譲受人との間での調整が必要となる場合も考えられます。 

②敷金の精算 

借地権が賃貸借の場合、その賃貸借契約の承継に関して、現在、賃借人が借地権設定者に対して差し入れている敷金または保証金の精算をどうするかも問題となります。 

一旦、借地権設定者から賃借人に返還してもらい、借地権譲受人が新たに敷金または保証金を差し入れする方法と、賃借人が差し入れている敷金・保証金をそのままとして、

その返還請求権を賃借人から借地権譲受人に移転させ、その精算は賃借人と譲受人との間で行うという方法が考えられます。 

これについては、敷金を返還等する場合には、その償却等の定めがある場合に償却を行うのか否かなど、

細かい点も含めて問題となりかねないため、賃貸人、譲受人としっかり調整して、全員が納得する形で合意する必要があります。 

③賃借権譲渡契約の締結 

新たな賃貸人と譲受人との契約について、賃借人変更契約を締結するのか、それとも、新たな契約書を賃貸人と譲受人との間で締結するのか、その契約の方式も問題となり得ます。 

4.まとめ

借地権を譲渡する場合の手続、注意点について、借地権が賃借権である場合を中心にまとめてみました。 

借地権の譲渡の場合には、とにかく、賃貸人、譲渡人(賃借人)、譲受人の三者がそれぞれに利害関係を有することになりますので、

それぞれの権利関係をきちんと整理するとともに、譲渡人である賃貸人がそれぞれの権利・利害関係を適切に調節しながら、合意に持って行く必要があります。 

その意味では、非常に調整能力が必要となります。 

状況に応じて、不動産取引の専門家や、不動産取引に精通した弁護士・司法書士・行政書士などの力を借りる等の対応も考えることが好ましい場合もあるでしょう。

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